中高年ダイバーの身体適性と管理
ダイビングは危険なスポーツでしょうか?
先ず、下の表をご覧下さい。
これは米国国家安全委員会事故調査の数字による、他の陸上スポーツやマリンスポーツにおけるケガの発生率のデータです。
スポーツ | 事故発生率 |
---|---|
アメリカン・フットボール | 2.17% |
野球 | 2.09% |
バスケットボール | 1.86% |
サッカー(フットボール) | 0.19% |
バレーボール | 0.37% |
水上スキー | 0.20% |
ラケットボール | 0.17% |
テニス | 0.12% |
水泳 | 0.09% |
ボーリング | 0.04% |
スキューバ・ダイビング | 0.04% |
この数字によると、スキューバダイバーは年間10,000人の内、4件のケガ率にとどまっており、他のスポーツ、レジャーなどに比べて決して高い事故率とはいえません。
「加齢」によるリスク
しかし、ダイビングに限らず、他のスポーツ・レジャー・アウトドア活動におけるミドル~シニア層の人口が拡大するに従い、全般に見られる傾向としてこの年齢層の事故が急増しているという現状が見られます。
「加齢」という肉体的変化は避けられぬ宿命で、どんなスポーツにおいても共通のリスクファクターといえます。
※ 平成18年 潜水事故の分析 財団法人 日本海洋レジャー安全振興会資料より
ダイビング特有のリスク
米国DAN(ダイビング・アラート・ネットワーク)の米国における事故例を調査分析した結果、ほとんどの事故の背景に関し、次のような報告がされています。
<ミドル~シニア層の事故件数の背景に潜む要因>
1.パニック 2.自信過剰 3.心臓発作 4.知識不足
さて、このデータを読み、皆さんはどういう感想を持たれますか?
私達プロの目から見て、これらの要因のうち、2.の自信過剰、3.の心臓発作はどのスポーツにも共通の「人的要因」と言えるのですが、1.のパニック、4.の知識不足に関しては、ダイビング特有の要因(ダイビング特有のリスク)であると考えています。
予防と準備
さて、以上の要因から私達は以下の項目に分けて皆さんに提言を申し上げたいと思います。
1.パニックの予防
パニックには身体的要因と精神的要因の2つの要素が絡んでいる事が多いのですが、具体的な予防策として以下の事があげられます。
<身体的要因>
(1)寝不足は絶対に避けましょう。
伊豆でのダイビングは移動に伴い、早朝の出発がほとんどです。
できれば現地での前泊や遅めの集合時間のリクエストなどの要望、または近場(相模湾、湘南海域でのダイビング など)でのダイビングをおすすめします。
(2)真夏の猛暑や混雑する週末などは避けましょう。
特に7月~9月の気温が30℃近い日は相当な熱疲労が伴います。また、混雑時には器材を背負ったまま、陸上でのエントリー待ちが発生する場合もあります。
(3)体温低下を防ぎましょう
レンタルウエットスーツなどで体温を奪われる事もあります。最低でもマイギヤーとしてフルオーダースーツを着用し、できるだけフードを着用する事がベストです。
(4)お久しぶりダイビングを避けましょう
プロの私達でも1ヶ月近く間があいてしまった時のダイビングは心拍数があがっている事を自覚する事があります。
これは、身体的要因に加え、メンタルな部分も絡んでいる代表的なパターンといえますが、できればあまり間隔をあけてしまわず、コンスタントに継続したいものです。
また、パパラギの基準では6ヶ月以上ブランクが発生した場合、「リフレッシュダイビング」をしていただくようお願いしておりますが、例えそれ以下のブランクであっても、遠慮なく「お久しぶりダイビング手順」をリクエストすることを強くおすすめいたします。
<精神的要因>
インストラクターとのコミュニケーションを重視して下さい。
先ずは、どんなことでも遠慮なくお尋ねください。
これは、海の情報やダイビングの知識に関することではありません。
ご自分が不快と感じる事に対して何か解決案はないか? という要望と解釈して頂けると幸いです。
例えば、全てのツアーや講習には決められた手順やスケジュールなどがありますが、私達はこれらがもっとも優先すべき事とは思っていません。大切な事は、快適さ、そして安全です。
ですから、可能な限り快適にダイビングをするためには参加者のコンディションを最優先し、「応用が利く対応」や臨機応変も重要と考えています。
そのためにはどうぞ、私達スタッフを信頼し、インストラクターを頼りにしていただき、積極的にコミュニケーションを取られる事をおすすめします。
担当インストラクター
穏やかな笑顔と丁寧な講習で、特に年配のダイバーから絶大な人気をほこるインストラクター。NPOパパラギ“海と自然の教室”の理事も務める。
ダイビング歴33年
インストラクター歴 24年
認定数 約1,200名
ダイビングは老若男女どなたでも楽しめるレジャーです。
一瞬でも水中を見た瞬間から異次元の世界に入れます。
自分よりも明らかに大きい生物と出会った時の感動は言葉では言い表せません。
是非、ダイバーになって異次元へ突入してみて下さい。
これが、精神的要因を取り除く唯一の策なのです。
水中に1歩入るまでにすべき事で解決されると考えています。
また、水中での物理的な要因などで起こるパニックの防止、または対処については
初心者のダイビング講習や継続コースなどで是非習得して下さい。
2.正確な知識を持ちましょう
ダイビングの知識や情報に限らず、海、そしてそれを取り巻く自然や地球環境への興味、そして面白さは無限です。
しかし、ここでの知識とは、自分の体力や健康状態が、水圧下の中でどう変化し、適応するか? という事であり、このことに深く関心を持ち、注意深く興味を持っていただきたいのです。
人生経験豊な大人の方々はあらゆる場において若い人達より冷静に物事を判断する能力があります。
しかし、逆にいざトラブルが発生した際に、決定的に体力や耐久力に劣るという事実もあるのです。
例えば、ダイビングトラブルに最も多い、「溺れ」は、敏速で正確な対応、そして適切な対処が行われる事で重大な事態を回避する事ができるのですが、往々にしてその人のバイタルな面が大きく左右される事も事実です。
ちょっとした「溺れ」などは、若い人の場合、すぐに回復する事があっても、ミドル~シニア層の場合には、簡単に死に至ってしまう事もあるのです。
そして、もちろんバイタルの面だけではなく、中高年特有の生活習慣病の影響や、心臓発作が伴ってしまう場合もあります。
前章でのグラフで見られるように、40代のダイバーの事故率が高いのは、自分自身の体力やバイタルの面での低下を、まだ自覚できていない、いわゆる「過信」がその要因ではないかと推測しております。
そういう意味で、「正確な知識」とは、プロの助言に耳を傾け、自分自身に謙虚に向かい合い、そして何よりも、他人に基準をおかずマイペースでダイビングを楽しむという事が大切です。
パパラギダイビングスクールでは中高年層の参加率の増加に対応した安全対策の向上に日々努力をしております。
是非、一緒に素晴らしいダイビングライフを謳歌しましょう!
<参考文献>
- 心肺蘇生法と救急心血管治療のためのガイドライン2000 岡田 和夫 帝京大医学部教授 監修
- 新しい潜水医学 大岩 弘典 元海上幕僚監部首席衛生官 著
- 潜水医学入門 池田 和純 防衛医科大学教授
- DAN JAPAN 会報 27号 中高年ダイバーの健康問題 (財)日本海洋レジャー安全・振興協会発行
パパラギ ダイビングスクールは 皆さんをお待ちしています!